
SAP S/4HANAとは?SAP S/4HANAの特徴と2027年に向けて何をすべきかを分かりやすく解説
本コラムではSAP社が提供する次世代のERP製品であるSAP S/4 HANAについてご紹介します。
現在利用しているSAP ERP(※1)の保守サポートが2027年終了するにあたり、何をすべきか。そしてSAP S/4 HANAの特徴を交えながら、分かりやすく解説します。
ぜひ、ご一読ください。
※1
本記事では、ERP製品「R/3」から名称を変更した「SAP ERP」と、ERPにSCM(サプライチェーン管理)やCRM(顧客関係管理)を加えた「SAP Business Suite」を合わせてSAP ERPと呼んでいます。
2027年に迫るSAP ERPの保守サポート終了
日本では2,000社以上が導入しているとされるSAP ERPの保守サポートが、2027年12月で終了します。
企業向け基幹システムとしての実績と信頼性があるSAP ERPの保守サポートを終了し、ユーザーに新しいERP製品「SAP S/4HANA」への移行を促す背景には、ビジネス環境の変化と機能の充実によってシステムが肥大化し、リアルタイム性が担保できなくなったという事情があります。
多様な業務や法制度への対応が求められること、またユーザーがいる限り古い機能を削除するわけにいかないことから、基幹システムの肥大化は避けられません。
企業が取り扱うデータ量は今後も増加し続けることが予想される中、既存システムの改良ではなく、新アーキテクチャでERPを新しく作り直すという発想から生まれたのがSAP S/4HANAです。
SAP S/4HANAの位置づけ
もともとSAP社はERPシステムを中心にソリューションを提供してきましたが、現在はカスタマーエクスペリエンスを提供するSAP Customer Experience :旧 SAP C/4HANA、購買管理のSAP Ariba、経費精算のSAP Concur、HR管理のSAP SuccessFactorsなど、多くの業務ソリューションを提供しています。
これらをトータルで提供する「インテリジェントエンタープライズ」のコンセプトのなかで、SAP S/4HANAは「デジタルコア」として、SoR(System of Record)を受け持つプラットフォームとして位置づけられており、独立したERPという各業務ソリューションを活用する上で重要なインフラとしての役割を担っているのです。
SAP S/4HANAの特徴
インメモリデータベースの採用
SAP S/4HANAは、コア技術としてインメモリデータベースである「SAP HANA」を採用しています。
インメモリデータべースとは、メインメモリ(主記憶装置:RAM)上にデータを展開し、処理を完結させるデータベースの総称です。インメモリ上のデータは、ストレージ内のデータよりも読み書きを高速に行うことができます。インメモリデータベースでは、変更・削除・追加などのデータ処理をすべてメインメモリ上で完結できるため、オンディスクデータベース(SSDやHDDで読み書きを行う従来型データベース)に比べ、数百~数万倍の処理速度を実現できます。
一般的にメインメモリは揮発性メモリです。つまり、電源オフと同時にデータが消えてしまいます。
しかし、インメモリデータベースでは電源オフ時にストレージへのデータ保存処理を追加することで、データの消失を回避します。このことからインメモリデータベースは、「メインメモリが持つ超高速処理」と「ストレージが持つデータの永続性」を両立させた新世代のデータベースと言えるのです。
ゼロレスポンスタイム
SAP S/4HANAはデータベースとしてインメモリ技術を全面的に採用しているため、従来のERPソリューションに比べてデータ処理速度が圧倒的に向上しています。
SAP社は、これを「ゼロレスポンスタイム」と呼称しています。
TCO(総保有コスト ※2)やストレージコストの削減
レスポンスタイムが大幅に改善することで、ビジネスプロセスの見直しが容易となります。
エンドユーザーのオペレーションが少なくなり総保有コストが削減される他、データサイズが小さくなることでストレージコストを削減できます。
※2
ある設備などの資産に関する、購入から廃棄までに必要な時間と支出の総計。初期投資額だけでなく、保守・運用・維持等のための費用を全て含めた費用を指します。
同一プラットフォームでの分析・レポーティング
従来のSAP ERPソリューションでは、経営戦略に結びつくような情報を取得する仕組みを、ERPとは別に構築したDWH(データウェアハウス)等で実現していました。
SAP S/4HANAでは同一プラットフォームで分析とレポーティングを行うことが可能になり、ビジネスに欠かせない情報を迅速に取得できます。
SAP S/4HANAはオンプレミスやクラウド(プライベートクラウドとパブリッククラウド)の運用プラットフォームを自由に選択することができます。
オンプレミスの場合、SAPユーザーは自社のデータセンターでオンプレミスバージョンをホストすることになります。
SAP社はオンプレミス製品には年単位のイノベーションサイクルを設けていますが、ユーザーはアップグレードを強制されることはありません。
プライベートクラウドは、基本的にはオンプレミスの導入を安全なプライベートクラウドでホストするオプションです。
パブリッククラウドとは、具体的にはSaaS(Software as a Service)を意味し、SAPやサードパーティーベンダー(「AWS(Amazon Web Services)」や「Microsoft Azure」など)がホストして管理し、四半期単位でアップグレードされるものです。
選択肢が増えたということは、逆に言えば、ユーザー企業はオンプレミスかクラウドか、自社にどちらが合っているのかを検討し、選択しなければならないということでもあります。
こうした特徴の中でも、特にSAP S/4HANA専用のデータベースであるSAP HANAの高速データ処理能力は大きな技術的特徴であり、クラウド環境とSAP HANAによるSAP S/4HANAの活用が、企業のビジネスに俊敏性とデジタルのプロセスをもたらすと期待されています。
インメモリ型データベースであるSAP HANAにより高速データ処理を実現すると同時に、データベースのチューニングコストやデータマートの開発・運用コストを大きく低減できるというメリットがあります。
例えば、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートでは、SAP HANAの導入により、3年分(2,000億件以上)のPOSデータにリアルタイムでアクセスできるようになり、多種多様な分析が行うことが可能となりました。また、SAP HANAのデータ圧縮機能とデータマート、インデックスの削減により、データベースのサイズを46.5TBから5.7TBまで圧縮することに成功しました。
新ユーザーインターフェイス(User Interface)「SAP Fiori」の標準採用
SAP S/4HANAでは、ECC6.0までのSAP GUIから「SAP Fiori」へと標準ユーザーインターフェイス(以下 UI)が変更されています。
SAP Fioriは、JavaScript・CSS・HTML5をベースとしたUIフレームワーク「SAP UI5」によって作られたまったく新しいUIです。SAP UI5はマルチデバイスを想定しているため、PC以外のデバイスからでも基幹システムへ柔軟にアクセスすることができます。
SAP Fioriが標準採用されたことで、タブレットやモバイル端末からも企業内の資源をリアルタイムに確認することが可能になりました。
また、SAP Fioriではメニュー表示にも変更が加えられています。
SAP GUI時代は、機能ベースの網羅的なメニュー配置であったため、すべてのメニューの中からドリルダウン形式で目的の機能を探し出す必要がありました。これに対してSAP Fioriでは、ユーザーロールに紐づくメニュー表示に変更されています。
ユーザーは自身のロールに基づいたメニューのみを操作すれば良いため、操作性の向上につながっています。
ERP導入、5つのメリット
それではERPを導入することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。大きく分けて、以下5つのメリットが挙げられます。
企業全体の業務を俯瞰した企業資源の可視化
1番目は、ERP本来の目的である「企業全体の業務を俯瞰した企業資源の可視化」です。
各部署に分散していた業務データを一元管理することで、企業内で起きていることをリアルタイムで把握し、特定の部署だけの利益にとらわれない判断をタイムリーに下せるようになります。
例えば、製造業で頻繁に実行されるMRP(Manufacturing Resource Planning)のためには、資源の可視化と業務シナリオに応じた精緻な計算が必要です。
MRPはERPの主要機能の1つであり、SAP S/4HANAでもMRPの高速実行が可能になっています。SAP S/4HANAでは、従来に比べて数倍以上の計算速度を誇るMRP機能を備えており、MRPのリアルタイム化が可能になりました。また、品目ごとのフローもリアルタイムで自動分析できることも強みの1つです。
品目ごとに行われるリアルタイムなMRP分析が可能になったことで、ビジネストレンド・商品のニーズ・市況に応じた迅速な意思決定支援を提供します。
目まぐるしく変化する現在は、状況に応じて素早く対処できるか否かで、ビジネスの成果が大きく左右されます。ERPを活用すれば、精度の高い意思決定を迅速に下すことができます。
業務の効率向上
2番目は、「業務の効率向上」です。様々な業務を処理する機能が1つのシステムに集約されているため、業務間でのデータの引き渡しが円滑になります。
各業務で同じ内容のデータを何度も入力する必要もありません。複数業務を結び付けて、処理プロセスを自動化することも可能になります。
ERPのパッケージには、財務会計、生産管理、販売管理、購買管理、在庫管理、人事管理など、基本的な業務機能が統合されています。これらの間でデータの連携ができれば、社内業務の効率を劇的に高めることができます。その他の専門的な業務も搭載されたパッケージもあり、効率向上の範囲をさらに広げることも可能です。
ガバナンスとセキュリティの強化
3番目は、「ガバナンスとセキュリティの強化」です。
企業情報のデジタル化とシステムのインターネット接続が広がった結果、機密データの社外持ち出しによる不祥事やサイバー攻撃による情報漏えいが頻繁に起きるようになりました。
こうした事態を避けるには、データ管理体制の強化が欠かせません。ERPによってデータを一元管理すれば、社内の情報の動きを迅速に把握し、内部統制の徹底とアクセス権限設定などによるセキュリティ対策がしやすくなります。
企業価値を高めるイノベーションの創出
4番目は、「企業価値を高めるイノベーションの創出」です。
ERPでは、部署をまたがる多種多様なデータを相互に紐付けて管理できます。そこに蓄積された膨大なデータは、加工や解析によって価値ある情報を抽出しやすい構造化したビッグデータとなります。
このため、多角的な視点から、それまで気付かなかったような新ビジネスの創出や業務効率の向上につながるヒントを容易に得られます。
システム運用負担の軽減
5番目は、「システム運用負担の軽減」です。
各部署に分散していたシステムを1つに統合することで、システム運用の作業効率化と負荷軽減につながります。
人手の少ない企業では、システム運用業務は本業を圧迫するほどの負担となります。大企業でも、システムの大規模化と複雑化によって運用自体に大量のリソースを割く必要があります。
ERPならば、こうしたシステム運用の無駄を最小化できます。
2027年に向けて何をすべきか
SAP ERPを基幹系システムとして利用する企業は、国内だけでも2,000社を越えます。ユーザー企業の対応としては、以下の選択肢があります。
- 保守サポート終了期限までにSAP S/4HANAに入れ替える
- 第三者保守サービスと保守契約を結び、現行のSAP製品を使い続ける
- 他社が提供する他のERP製品に入れ替える
1.の場合、SAP S/4HANA専用のデータベースであるSAP HANAを利用する必要があり、他社のデータベース製品は使えなくなります。
SAP ERPはUNIX、Windows、汎用機、Linuxなど複数OS、複数データベースで稼働するマルチプラットフォーム対応であるのに対して、新製品のSAP S/4HANAのデータベースは、SAP HANAのみの対応となっています。
そのため、移行する場合は現在ユーザーが利用しているものとSAP HANAの2種類のデータベースを保守することになり、維持管理する仕事が相当増えることになります。また、前述の通りアーキテクチャも刷新されているため、SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行は、他社のERPアプリケーションに移行するのと同等の手間がかかるとも言われます。
データベースがSAP HANAに固定されたことで、SAP社はマルチプラットフォーム対応に割かれていた膨大な開発リソースとサポート体制を抑えることが可能となりますが、移行に伴うユーザー企業の負担は非常に大きくなると予想され、高コストを忌避しSAP S/4HANA導入を断念する企業も出てきています。
例えば2018年、ドイツのディスカウントスーパーマーケットのチェーン、リドルは、5億ユーロを投資して進めていたSAP S/4HANAの導入を断念することを発表しました。また、2027年の期限が近づき、切り替えを行う企業が急増した場合には、SAP S/4HANAに精通した人材不足や価格高騰も懸念されます。
仮に2027年の保守サービス終了期限を越えてしまったからと言って、翌日からSAP ERPが動かなくなるわけではないため、まだ対応方針を決めかねている企業も多いと言われています。
SAP社によれば、SAP S/4HANAのサービス開始から、利用顧客が1,000社突破するまでに2年7カ月かかりましたが、1,000社から2,000社突破までは10カ月と、SAP S/4HANAの導入スピードは加速しています。
その一方、収益10億ドル以下のユーザー企業の7割以上が、まだ移行に向けた検討を開始していないという調査もあります。
「まだ5年ある」という見方もありますが、日本では2027年に向け2020年ごろからSAPコンサルタント不足が始まるとも言われており、自社の意向に沿ったプロジェクトを円滑かつ着実に進めるためにも、早めに方針を決めることが重要です。
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