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倉庫業務の標準化と進化 - SAP EWM導入による業務改革の実例 -

本記事では、ある国内化学メーカーにおける、SAP EWM(Extended Warehouse Management)導入の事例をご紹介します。

同社は、将来のデジタルトランスフォーメーション(DX)に対応するため、長年使用してきたホストコンピュータベースの基幹システムを刷新し、SAP ERPの導入に踏み切りました。特に倉庫業務においては、業務標準化とリアルタイムな情報連携を実現すべく、SAP EWMを中心にシステムを再構築しました。また、一部の出荷・配送業務にはSAP TM(Transportation Management)も活用し、物流全体の可視化と最適化を図りました。

本記事では、SAP EWM導入の背景、業務要件への対応、そして経営的な成果についてご紹介します。

倉庫現場が抱えていた課題

改革前の倉庫業務では、以下のような3つの主要な課題が存在していました。

スクラッチ開発による柔軟性の欠如

長年現場に合わせて独自開発されたロジスティクスシステムは、業務に密着していた一方で、技術の進化に追随する柔軟性がなく、新機能の追加が困難な状況でした。

紙ベース運用の限界と環境負荷

紙による指示・記録は、業務効率や正確性に課題を残し、テレワークやSDGs対応といった新たな働き方・価値観にも合致しない状況でした。

基幹システムとの連携不足

倉庫内で発生するデータが基幹システムと連携しておらず、リアルタイムな在庫把握や経営判断への活用が難しい状態でした。

改革の方向性とシステム選定方針

これらの課題に対し、同社は以下の3点を改革の方針として定めました。

業務の標準化とシステム拡張性の確保

SAPシステムの標準機能を最大限に活用し、「Fit to Standard」の考え方で将来的な変化にも対応できる柔軟な基盤を構築しました。

デジタル化・ペーパーレスの推進

紙媒体を削減し、作業の電子化によって業務効率と働き方の柔軟性を実現しました。

データを活用した経営基盤の強化

倉庫業務と基幹システムを密に連携させ、現場情報をリアルタイムに取得・分析できる体制を整備しました。

倉庫業務の改革にあたっては、単なる業務効率化だけでなく、「経営判断の迅速化に寄与するリアルタイムな情報連携」を重視してシステム選定が行われました。

同社が持つ倉庫業務の要件は、棚番・ロット単位での厳密な在庫管理、荷姿ごとの在庫区分管理、さらには配送指示を含む出荷プロセスの細やかな制御など、多岐にわたります。これらの複雑な要件を、SAPが提供する標準機能で過不足なく実現できるソリューションとして、SAP EWMの導入が決定されました。

次節では、こうした業務要件にSAP EWMがどのように対応し、それが経営判断基盤の強化──すなわち、冒頭で示した課題の解決──にどうつながったのかをご紹介します。

SAP EWMによる業務要件対応と経営効果

同社が抱えていた倉庫業務の課題の一つは、基幹システムとのリアルタイムな連携が不足しており、現場の情報が経営判断に活かしきれていなかったことでした。これを踏まえ、改革方針として掲げられたのが「データを活用した経営基盤の強化」です。

その実現に向けて、倉庫業務に必要な業務要件を整理した結果、SAP S/4HANAの標準機能(以下、S/4コア)ではカバーしきれない部分が明らかとなり、SAP EWMの導入が決定されました。

以下に、主要な業務要件、それに対するS/4コアの限界、SAP EWMによる解決策、そして経営視点での効果という流れで整理します。

要件1:棚番単位でのロケーション管理の精度向上

背景

品目ごとに棚位置を固定し、どのロットを使うかまで正確に管理する必要があった

S/4コアの限界

ロット管理は可能だが、棚番(ロケーション)まで含めた運用は標準機能では難しい

SAP EWMでの解決

ロケーション・ロット・荷役単位(HU)での管理が可能になり、指示精度・棚卸精度が大幅に向上

経営効果

在庫情報の正確性が高まり、不要な在庫・欠品の抑制、運用コスト削減に寄与

要件2:荷姿・入り目ごとの在庫管理

背景

同一品目でも容量や包装の違いにより、在庫を分けて管理する必要があった

S/4コアの限界

在庫単位の柔軟な区別・優先使用などには対応が難しい

SAP EWMでの解決

パレット単位や梱包単位での在庫区分、ピッキングの自動優先制御が可能

経営効果

端材・半端品の先入先出が徹底され、在庫の死蔵防止、資材コストの低減を実現

要件3:出荷〜配送業務の一貫管理とタイムリーな進捗把握

背景

出荷指示から配送手配、実績登録までをスムーズに連携したい

S/4コアの限界

出荷伝票までは扱えるが、倉庫内作業や輸送指示の細かな制御は難しい

SAP EWM + TMでの解決

出荷オーダー、倉庫タスク、配送ステージが段階的に管理され、進捗がリアルタイムで可視化

経営効果

作業遅延・出荷ミスの早期検知、配送コストやリードタイムの最適化に貢献

こうした一連の取り組みは、単なるシステム導入を超えて、「現場と経営をつなぐデジタル基盤の確立」という観点からも、同社のDX戦略に大きく貢献する成果となりました。

業務要件の解決と経営基盤強化への貢献

SAP S/4HANAの標準機能(コア)だけでは、棚番管理や荷姿別管理、詳細な出荷制御といった同社固有の複雑な倉庫業務には対応が困難でした。

SAP EWMの導入により、これらの要件を標準機能のみで柔軟にカバーし、業務の効率化と精度向上が実現しました。特に、基幹システムとの密なリアルタイム連携を通じて、倉庫内の在庫情報や作業データが即座に経営層へインプットされる体制が整備されました。

これにより、改革の方向性として掲げていた「データを活用した経営基盤の強化」が具現化され、導入前に指摘されていた以下の課題が解消されています。

柔軟性の欠如

標準ソリューションの活用で、将来的な機能拡張にも対応可能な仕組みに刷新されました。

紙ベース運用の限界

作業端末による業務処理と、ステータスの即時更新によりペーパーレスを実現しました。

基幹システムとの連携不足

SAP EWMとSAP ERP間のリアルタイム連携により、現場データの即時反映が可能になり、経営判断のタイムラグを大幅に解消しました。

これにより、業務要件への対応だけでなく、冒頭で挙げた経営課題の解決にも直結する改革が実現されました。

導入成果と今後の展望

SAP EWM導入を通じて、倉庫業務の標準化とデジタル化が実現され、業務効率や経営判断の質に大きな効果がもたらされました。

進化可能な業務基盤への刷新

SAPシステムの標準機能中心の構成としたことで、新機能の適用や制度変更にも柔軟に対応可能な構成を実現しました。

約50%の紙媒体削減による業務効率向上

作業のデジタル化により、帳票類の大幅な削減に加え、作業ミスや手戻りの低減も実現しました。

データドリブンな経営判断の基盤を確立

リアルタイムで連携される在庫情報や作業実績データをもとに、経営層の迅速な意思決定が可能となりました。

今後は、標準機能のさらなる充実と業務プロセスの最適化を並行して進めることで、アドオンに頼らずに高度な倉庫業務を実現できる状態を目指しています。

また、SAP EWMの持つ拡張性を活かし、将来的には外部倉庫との連携や、AI・IoTを活用したソリューションの導入も視野に入れています。

まとめ

本記事は、複雑な倉庫業務に対しても、SAPシステムの標準ソリューションを活用することで、業務要件への対応と経営基盤の強化の双方を実現できることを示しています。

従来の課題であった基幹システムとの連携不足や、業務の属人化・非効率をSAP EWM導入により克服し、リアルタイム性を備えた柔軟な仕組みへと刷新されました。なお、本プロジェクトは約2年をかけて進行し、従来の従来のS/4HANA導入と同規模の工数での本番稼働を実現した点も、高く評価されています。

一方で、SAP EWMは進化中のソリューションであり、一部の業務要件に標準機能だけでは対応できず、アドオン開発による対応が必要となりました。しかし、SAP EWMの継続的な機能拡張により、将来的にはこうした個別対応の必要性は減少し、よりパッケージ標準機能での対応が可能になると期待されます。

NTTデータ グローバルソリューションズは、今後もお客様の業務課題に寄り添い、持続的な業務改革とDXの実現を支援してまいります。

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